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「インドの時代が来た」 モディ首相の経済政策で中国に取って代わる存在に

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市場関係者は、モディ首相率いるインド人民党の3期連続での政権掌握に期待を寄せる/Channi Anand/AP

市場関係者は、モディ首相率いるインド人民党の3期連続での政権掌握に期待を寄せる/Channi Anand/AP

ニューデリー(CNN) この30年、ピユーシュ・ミタル氏はインドの首都からジャイプール市まで、185マイル(約298キロメートル)の距離をたびたび車で移動した。運転には6時間かかるのが常だった。

「30年間、移動距離を3時間に短縮すると言われ続けてきたが、実現されたことはなかった」と言うミタル氏は、サンフランシスコを拠点とする投資ファンド「マシューズ・アジア」でファンドマネジャーをしている。「高速道路も1車線から2車線、3車線へと、あらゆる拡張工事が行われてきた。だが、移動距離は変わらず6時間だった」

ところが昨年、2都市を結ぶ新設高速道路を時速75マイル(約120キロメートル)で運転したところ、これまでの半分の時間で到着した。

「あの高速道路に初めて乗った時は、開いた口がふさがらなかった。『おいおい、こんなことがあり得るのか……インドで?』と思った」(ミタル氏)

インドの最新インフラの素晴らしさは、新興市場専門ファンドを担当するミタル氏をはじめとする投資家がインドの成長見通しに期待を寄せている理由のひとつでしかない。

世界各地の金融専門家は、2014年以来ナレンドラ・モディ政権下のインドの成長に注目している。モディ首相は南アジアのインドを25年までに5兆ドル(約752兆円)規模の経済大国にしたいと公言してきた。

世界最多の人口を誇るインドの楽観的な雰囲気は、中国の風潮とは全く対照的だ。中国は資本の海外流出が加速するなど、数々の経済的課題に追われている。

中国の株式市場は前回ピークを迎えた21年以来低迷が続いており、上海、深圳、香港の株式時価総額は5兆ドル(約752兆円)以上も減少している。海外直接投資(FDI)は昨年激減した後、今年1月にはさらに23年同月比で12%近く下落した。

一方でインド株式市場は史上最高値を更新し続けている。インド市場の上場企業の時価総額は昨年後半に4兆ドル(約602兆円)を突破した。

今後の見通しはさらに明るい。22日に米投資銀行ジェフェリーズが発表した報告書によると、インドの株式時価総額は倍以上に増え、30年までに10兆ドル(約1504兆円)に達すると見込まれている。「世界の大手投資家も見過ごすことはできなくなる」だろう。

「中国がだめとなると……中国の代わりになりそうな国はどこか?」とミタル氏。「中国のような国は、インドをおいて他にない……ある種の形態、様式において、おそらく世界が成長要因として模索する代替案はインドだ」

これまで中国に代わる投資先として恩恵を受けてきたのが日本だった――企業利益の改善と円安が追い風となり、日経平均株価は先週34年ぶりに史上最高値を更新した。だが日本はいまだ景気低迷から抜け出せず、世界第3の経済大国という地位をドイツに奪われたばかりだ。

世界の株価指数を取りまとめるモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が改訂した最新指数も、インドに対する強気な見方を反映している。今月MSCIはインドのエマージングマーケット指数を17.98%から18.06%に引き上げ、中国を24.77%に引き下げる方針を発表した。

MSCI指数は、世界各地の機関投資家が投資先や注目市場を決める上での判断材料となっている。

投資会社マッコーリー・キャピタルのインド市場調査を担当するアディーティヤ・スーレシュ氏は、「2年前、インドのMSCIエマージングマーケット指数は7%前後だった」と語る。「(MSCI指数の)18%という数字は、このまま自然と25%へ向かっていくか? そうなるだろう。投資家の話題を総合すると、そうした考えに傾いているのはほぼ明白だ」

インドでは数カ月後に総選挙を控える中、市場関係者はモディ首相率いる与党「インド人民党(BJP)」が3期連続で政権を握り、今後5年間の経済政策がさらに予想しやすくなることを期待している。

「モディ首相が過半数の議席を得て再び政権を握り、政治が安定すれば、インドへの投資は今後さらに継続的に増えていくだろう。それは自信を持って言える」(ミタル氏)

次に世界の成長を促す動力源

インドに漂う楽観的ムードには十分な理由がある。若者人口の急増やフル稼働する工場など、インドでは様々な出来事が有利に働いている。

国際通貨基金は来年度のインドの成長率を6.5%、中国の成長率を4.6%と予測している。ジェフェリーズのアナリストも、インドが27年までに世界第3の経済大国になるだろうと予測している。

30年以上前の中国がそうだったように、インドのインフラ改革は始まったばかりだ。数十億ドルを投じて道路や港湾、空港、鉄道の建設が進められている。

デジタルおよび物理的インフラへの投資がインド経済に「非常に強力な相乗効果」をもたらしており、「後戻りはできない」とスーレシュ氏は言う。

チェンナイの鉄道建設現場で働く作業員/R. Satish Babu/AFP/Getty Images
チェンナイの鉄道建設現場で働く作業員/R. Satish Babu/AFP/Getty Images

世界でもっとも急速に成長を遂げる主要経済国は、企業の間で見られるサプライチェーン(供給網)の再考にも便乗を試みている。国際企業はどこも経営の多角化で中国からの脱却を図っている。こうした企業は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中、中国で数々の障壁に直面し、現在も米中の緊張状態から生じるリスクにさらされている。

調査会社キャピタル・エコノミクスのエコノミスト、ユベール・ドゥ・バロチェス氏は今年1月、「サプライチェーンの『フレンドショアリング(友好国に限定したサプライチェーンを構築すること)』で恩恵を受ける第一候補はインド、甚大な犠牲を被るのは中国だ」と書いている。

結果として、米アップル社の最大の供給業者フォックスコン社をはじめ、世界トップ企業の一部は、インドでの業務拡大を進めている。テスラ社の最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏も昨年6月、同社が「最大限の努力を払って速やかに」インドに投資できるよう検討していると発言した。

「(モディ首相は)インドを大事にしている。だからこそインドに大幅な投資をするよう我々の背中を叩いている。我々もそうするつもりだ」とマスク氏は報道陣に語った。

だが、インドの自信は慢心と紙一重だと懸念する声もある。

大騒ぎするだけの価値はあるのか?

世界第5位の経済国に関心が高まる中、インド銘柄の株価高騰に一部の国際投資家は及び腰だ。

スーレシュ氏によれば、インド銘柄の株価は他の新興国と比較して高いのが常だった。だが現在は「いっそう高騰している状態」だという。

個人・機関投資家を問わず、インド国内ではそうした高いバリュエーションを気にかけていないようだ。インド株式市場が前代未聞の続伸を続ける要因もここにある。

マッコーリーによると、個人投資家だけでもインド株式時価総額の9%を占めるのに対し、海外投資の割合は20%をわずかに下回る。だが総選挙が終了すれば、海外投資も24年後半には増加するだろうというのがアナリストの予測だ。

ボンベイ証券取引所の前を通りかかる歩行者/Indranil Mukherjee/AFP/Getty Images
ボンベイ証券取引所の前を通りかかる歩行者/Indranil Mukherjee/AFP/Getty Images

もうひとつ想定される課題がある。新たな景気の波が起きているにもかかわらず、インドには中国から流出する資金をすべて吸収するほどの受け皿はない。中国の経済力はいまだにインドの約5倍だ。

中国には「(時価総額)1000億~2000億ドル(約15兆~30兆円)を超える企業がざらにある」とミタル氏も言う。「それだけの大金の受け皿をインドで見つけるのは困難だ」

だがインドの好景気が国内投資家に支えられていることは、インドにとってはさらなる利点となる。また海外資金への依存度も減る。

「おかげで世界情勢の影響を大いに免れている」(スーレシュ氏)

地政学的な衝突や先行き不透明な経済状況の他に、海外企業や国際投資家が次第に警戒を強めているのが中国国内の政治的リスクだ。強制捜査や拘束の可能性もあるため、多くの中国株が買い時にもかかわらず、機関投資家はいまだに中国株の購入には強い警戒感を示している。

ボルティモアに拠点を置く投資会社ブラウン・アドバイザリーの投資マネジャー、プリヤンカ・アグニホトリ氏によれば、「中国には優良企業もたくさんあるが、こうした規制上の問題をふまえると、長期的な予想を立てるのが非常に難しくなっている」

一方インドは西側諸国や主要経済国と健全な関係を築き、大企業の工場建設誘致にも積極的だ。

インドのナーマラ・シサラマン財務相は今年2月の予算演説で、モディ政権1期目の14年以降、6000億ドル(約90兆2900億円)近いFDIが流入したと発言した。この10年で倍以上も増えたことになる。

「持続的な海外投資の促進に向け、政府はインドの発展を主眼において友好国と二国間投資協定の交渉を行っている」と財務相は続けた。

中国情勢とは無関係に、経済の魔神と化したインドを止めることは難しいというのがアナリストの意見だ。

「中国が交渉の場に戻って数々の問題を解決したとしても、インドが最前線から退くことはないだろう」とミタル氏は言う。「インドの時代が到来した」

本稿はCNNのディクシャ・マドック記者による分析記事です。

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