サッカー女子W杯のもうひとつの戦い プレーの権利求めるアフガニスタン女子代表

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豪州でアフガニスタン女子代表選手らとの再会を果たしたハリダ・ポパル氏/Hilary Whiteman/CNN

豪州でアフガニスタン女子代表選手らとの再会を果たしたハリダ・ポパル氏/Hilary Whiteman/CNN

オーストラリア・ブリスベン(CNN) 過ごしやすい冬の夜、ブリスベン・スタジアムで行われたサッカーの女子ワールドカップ(W杯)、オーストラリア対ナイジェリアの試合。ハーフタイムではコールドプレイの「A Sky Full of Stars」に合わせ、数千もの携帯電話のライトが左右に振られていた。

2列先のピッチからそう離れていない観客席に、亡命したアフガニスタン女子代表チームが座っていた。彼女たちも国の代表としてプレーすることがどんなものかをよく理解し、いつかは自分たちもと夢見ている――だがそれも、サッカーの国際統括機関から代表チームとして認められればの話だ。

代表チームを創設したハリダ・ポパル氏は、デンマークから選手たちとの再会を果たすためにやってきた。選手たちは2021年8月、米国がアフガニスタンから撤退した際、オーストラリアの軍用機でイスラム主義勢力タリバンによる死の脅迫から逃れた。現在はオーストラリアで暮らしている。

「みな口々に『夢を見ているようだ……自分たちがここにいるなんて、とても信じられない』と繰り返している」。オーストラリア代表の鮮やかなイエローのユニホームを着たポパル氏は、興奮気味にこう言った。

2年前、同氏はアフガニスタン女子代表の国外脱出に手を貸してほしいと国際社会に訴えた。また選手たちには、用具類を燃やすよう懇願した。競技スポーツをプレーしたという理由でタリバン兵から狙われないようにするためだった。現在この国では女性はスポーツを禁じられている。

今、同氏はサッカーの最高機関である国際サッカー連盟(FIFA)に強く働きかけている。女子の選手たちがアフガニスタン代表として、再びピッチの上を駆けまわることができるようにと。

「アフガニスタンにはシニア女子代表だけでなく、欧州各地にはユースチームもいる。米国やカナダにも」と同氏。「国を離れたアフガニスタンの選手も、国際試合で代表チームとして出場できないだろうか? そこまで難しいことではない。月に行こうというわけじゃない」

7月、難民を対象にした大会「ホープカップ」に参加したアフガニスタン女子代表/Kelly Defina/Getty Images
7月、難民を対象にした大会「ホープカップ」に参加したアフガニスタン女子代表/Kelly Defina/Getty Images

カブールからの脱出

今からほぼ2年前、選手たちは逃げ惑う群衆をかき分け、脱出の決め手になるだろうと望みをかけた書類を手に、カブール国際空港のゲートへと向かった。

米軍によるアフガニスタン統治の最後の数日間は、スタミナと覚悟が試された。武装したタリバン兵が地元住民を威嚇して宙に発砲する中、群衆の数は膨れ上がり、包囲された空港周辺の検問所に押し寄せた。

タリバンが政権を握ってからというもの、少女や女性は学校や職場に行くことを禁じられ、ほとんど自宅で監禁された状態だ。男性の保護者の同伴なしでは、外出することもできない。

国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、「女性の権利がもっとも深刻に脅かされている」としている。

先週には、女性たちが家庭内暴力を逃れるために残された避難所のひとつ、美容室がタリバンによってすべて閉鎖された。経済が悪化し、腹をすかせた子どもに食べ物を買うための金を稼ぐのも困難な国で、美容室は6万人前後の女性の収入源でもあった。

「これを皮切りに、さらに大規模な弾圧が行われるのではないか。女性が公職や国際NGOや国連の仕事を奪われたように、民間セクターからも追い出されるのではないか。それが現在の懸念だ」と語るのは、HRW女性の権利部門のアソシエーションディレクター、ヘザー・バー氏だ。

「まさに女性や少女たちは、壁が日に日に狭まってくるのを感じている」(バー氏)

FIFAへの訴え

アフガニスタン女子代表は先月28日、ブリスベンでオーストラリア外務貿易省が主催したジェンダー関連のシンポジウムにゲストとして招かれた。シンポジウムではペニー・ウォン外相も出席し、檀上から女子代表に直接語りかけた。

「違う状況で皆さんをお迎えできたら良かったのに。皆さんには、国を背負って今回のワールドカップに参加していただきたかった」と外相。集まった観衆の中にはFIFA女子サッカーの責任者サライ・ベアマン氏と、FIFA史上初の女性事務総長ファトマ・サムラ氏の姿もあった。

その後ベアマン氏は詰めかけた観衆を前に、現在FIFAが数十年にもわたる男女サッカーの資金格差の解消に注力していると述べた。

「これまでずっと長い間、男子の試合に資金が投入されてきた。女子の試合にも同レベルの資金が投じられるようになるまで何十年もかかった」(ベアマン氏)

「我々は全力でこの流れを加速させ、男女格差を解消し、失われた時間を埋め合わせていく。一部の地域や大陸で女子サッカーが著しく禁止されていた時期に、組織は目を背けてきた。その穴埋めをするのが我々の責務だ」とベアマン氏は続けた。

タリバンがアフガニスタンの女性にサッカーを禁じていることや、アフガニスタン女子代表がFIFA承認を求めていることについては、ベアマン氏、サムラ氏いずれも直接言及はしなかった。この件についてCNNはベアマン氏にコメントを求めたが、辞退された。

代わりにFIFAは声明を発表し、「まずは関係する加盟団体から承認されない限り、FIFAにはいかなるチームも正式承認する権利はない」と述べた。

「しかしながら、男性と女性が差別を受けることなく、安全な環境でサッカーをプレーできるようにすることがFIFAの最重要課題である」「したがって、FIFAは今後も状況を注視し、アフガニスタン・サッカー連盟や関係者と密に連絡を取りながら、アフガニスタンでのサッカー推進を目指していく」(FIFA声明文)

アフガニスタン・サッカー連盟のベヘラム・シディキ事務総長はCNNの取材に答え、FIFAから女子代表について問い合わせがあったこと、女性がクラブでプレーするのはルール違反に当たると回答したことを明らかにした。

「女子チームがプレーしても、我々は賛成も反対もできない。それにチームが現在アフガニスタンを離れているのであれば、政府の規制があるため連盟もサポートできない」

アフガニスタン女子代表は昨年、地元クラブのメルボルン・ビクトリーで練習を開始した/Kelly Defina/Getty Images AsiaPac/Getty Images
アフガニスタン女子代表は昨年、地元クラブのメルボルン・ビクトリーで練習を開始した/Kelly Defina/Getty Images AsiaPac/Getty Images

ポパル氏いわく、女子代表チームもアフガニスタン・サッカー連盟が自分たちの肩をもつとは期待していない。そんなことをすれば、女性の権利を訴える人々を罰するタリバン指導部の怒りを買うことになるからだ。

「仮にアフガニスタン・サッカー連盟がチームを承認し、『アフガニスタン代表として認めよう』と言えば、銃で撃たれるだろう。石を投げられ、殺される可能性もある」(ポパル氏)

国連女性機関(UN Women)の協力のもと、23年女子ワールドカップが促進する八つの社会大義のひとつに性平等がある。チームキャプテンのアームバンドや、フィールド周辺の旗やスクリーンにも、性平等のメッセージが表示されている。

だが元オーストラリア男子代表選手で、アフガニスタン女子代表の国外脱出にも中心的役割を果たした活動家のクレイグ・フォスター氏は、FIFAの定款では社会啓発キャンペーン以上のことが求められていると語る。

「FIFAは自分たちの責任を完全放棄し、チームが所属する国内連盟に丸投げしている。テロリスト組織が連盟を運営しているのだから、明らかに機能するわけがない」(フォスター氏)

「性平等に関するFIFAの定款では、全世界どの加盟連盟でも女性に対する差別があってはならない。そしてもっとも由々しき差別は、試合さえも禁じることだ」

プレー続行

アフガニスタン女子代表は昨年、新たな故郷メルボルンで活動を再開した。地元のクラブ「メルボルン・ビクトリー」が選手たちの受け皿となり、トップクラスのコーチを配属したためだ。

現在は母国のシンボルカラーである赤と黒のユニホームを着用し、州の女子リーグでプレーしている。7月に入ってからは難民を対象にした大会「ホープカップ」にも出場した。

アフガン脱出前に用具類を燃やしたというゴールキーパーのファティマ・ユシフィ選手/Kelly Defina/Getty Images
アフガン脱出前に用具類を燃やしたというゴールキーパーのファティマ・ユシフィ選手/Kelly Defina/Getty Images

ゴールキーパーのファティマ・ユシフィ選手いわく、選手たちの想いはつねに故郷の家族や友人に向けられている。みな女性が蔑ろにされている国で、命の危険や目標を失うことを恐れながら暮らしている。

「みんなにはW杯を観戦するよう呼びかけている。生きていることを実感できるし、今も戦っている女性がいるんだと、少なくとも希望を持つことはできるから」

メルボルン・ビクトリーのスポーツディレクターを務めるジョン・ディドゥリツァ氏いわく、アフガニスタン女子代表がすべてを捨てて出国した心の傷を癒やすには、母国のためにプレーする希望が必要だという。

「国際大会が行われても、対戦カードにアフガニスタン代表の名前はない。その度に選手たちの心が折れる」(ディドゥリツァ氏)

ディドゥリツァ氏も、アフガニスタン女子代表のプレー実現に向けてFIFAが介入するのを、固唾(かたず)をのんで待ち構えているわけではないそうだ。

「こうした上辺だけの対応は、国際統括団体には珍しくない。さんざん建前を並べ、象徴的な動きはたくさんあっても、たいした行動はない」(ディドゥリツァ氏)

「メルボルン・ビクトリーは2年間行動を起こした。アフガニスタン女子代表の選手たちが目標を達成できるまで、再び正式に国の代表としてプレーできるまで、サポートし続けていく」

豪州対ナイジェリアの試合を観戦するアフガニスタン女子代表チームのメンバーら/Hilary Whiteman/CNN
豪州対ナイジェリアの試合を観戦するアフガニスタン女子代表チームのメンバーら/Hilary Whiteman/CNN

会場に集まった地元ファンには残念なことに、27日の試合で「マチルダス」ことオーストラリア女子代表はナイジェリアに3―2で敗れた。

ゴールを決めたオーストラリアのミッドフィルダー、エミリー・バンエグモント選手は試合終了後の談話で、チームとしてすぐに気持ちを切り替え、31日の対カナダ戦で本選進出を目指すと発言した。

「今日の結果を引きずらず、すぐに気持ちを切り替えて、今はカナダ戦に集中する」

アフガニスタン女子代表が観客席でマチルダスを応援していたと聞くと、「今夜ここで私たちを応援してくれたなんて最高だ。本当にうれしい。これからも自分たちの要求や望みのために戦い続けてほしい」とコメントした。

前日の応援で喉(のど)をからせたゴールキーパーのユシフィ選手は試合翌日、アフガニスタン女子代表は今後もあきらめずに変化を求めていくつもりだと述べた。

「アフガニスタンは永遠にこんな状態だとは思わない」とユシフィ選手は言う。「いつかきっと変化が訪れる。私たちが変化を起こす。自分を、仲間たちを信じている」

サッカー選手から難民支援活動家に転じたフォスター氏は、アフガニスタン女子代表の復権をFIFAに訴えるよう、世界中の男女サッカー選手に呼びかけた。

「ここオーストラリアではマチルダスがワールドカップ母国優勝を夢見ることができるのに、アフガニスタンの女性たちはボールを蹴ることすら禁じられている。そんなことは受け入れられないという私たちの声を、FIFAに届けようじゃないか」(フォスター氏)

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