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トランプ氏4回目の起訴、米国の選挙崩壊がまた近づく

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トランプ前大統領に対する4回目の起訴は、米国の民主主義にどのような影響を及ぼすか/Doug Mills/The New York Times/Redux

トランプ前大統領に対する4回目の起訴は、米国の民主主義にどのような影響を及ぼすか/Doug Mills/The New York Times/Redux

(CNN) ドナルド・トランプ前米大統領に対する4回目の刑事起訴でとくに衝撃的な点は、2020年大統領選の正式な勝者からジョージア州の票を奪うために幾重にも張り巡らされた陰謀の規模ではない。

ジョー・バイデン大統領の勝利を覆す策略の首謀者として18人とともに14日起訴されたトランプ氏が、17カ月後に第47代大統領として右手を挙げ、自ら崩壊を企てた合衆国憲法の保護と維持を宣誓する可能性があるという点だ。

常軌を逸したトランプ政権とそれに続く責任追及の動きは、深刻な政治危機を生んだ。そして日付が変わる直前に、同氏がまたもや――今度は選挙の要となる接戦州ジョージア州の大陪審から――起訴されたことで、さらに危機感が高まった。これでトランプ氏は4回の起訴で合計91件の罪に問われることになるが、裁判の泥沼にはまりながらも、24年大統領選挙の共和党指名争いで首位をキープするというただでさえ前代未聞の対立が、今回の件でさらに際立つ形となった。

98ページに及ぶ起訴状に記載された41件の罪状からは、州職員に圧力をかけ、選挙詐欺にまつわる虚偽を州議会に申し立て、選挙職員に嫌がらせをし、司法省関係者や当時のマイク・ペンス副大統領を抱き込もうとした陰謀容疑が驚くほど鮮明に浮かび上がる。ジョージア州などの州で投票機材を違法に操作しようとした疑いに加え、陰謀を実行に移そうとしたとみられるトランプ氏と関係者の一連の行動も列挙されている。

「今回起訴されたトランプ氏をはじめとする被告人らは、トランプ氏が敗北したことを受け入れようとしなかった。そして実態を十分認識したうえで意図的に陰謀論に加担した。選挙結果を違法な形でトランプ氏に都合よく変えるために」(起訴状)

なんとも非現実的な話だ。だが今やトランプ氏のおかげで、前大統領に対する起訴――数カ月前まではありえなかった――は日常茶飯事のようになってしまった。ジョージア州の起訴に加え、ジャック・スミス特別検察官からも、機密書類の不適切な取り扱いと20年大統領選の結果を覆そうとした容疑でそれぞれ起訴されている。また16年にポルノ女優に口止め料を払った件では、3月にマンハッタンでの裁判を控えている。以上3件でトランプ氏はいずれも無罪を主張しているが、ジョージア州でもそうするのは確実だ。同州の選挙の正当性を攻撃したのは、自由な発言の権利を行使したにすぎないと主張してくるだろう。

再出馬を撤回するどころか、前大統領は再選を――また大統領ならではの特権を――最大の望みとして、津波のように襲いかかる裁判の行方を阻み、24年11月の前後に有罪判決が下された場合にはそれも阻止しようと考えているようだ。だが米国連邦制度では、仮にトランプ氏が大統領の座に返り咲いたとしても州の捜査や刑事裁判を阻止するのは難しく、大統領恩赦も行使できないのが現実だ。それゆえジョージア州の裁判は非常に大きな意味を持つ。

山のような容疑の数々

今回の起訴で、トランプ氏および元弁護士ルディ・ジュリアーニ氏をはじめとする共同被告人は、今月25日正午までに出頭するよう要請されているが、前大統領が直面する山のような容疑はさらに膨れ上がった。すでに物議を醸している同氏の功績に影を落とすだけでなく、もし有罪が確定すれば、結果的に同氏の自由も脅かしかねない。他の政治家がこうしたスキャンダルに見舞われたなら、とっくの昔に辞職していただろう。過去にこれほどの規模の刑事起訴に直面した被告人にもそうそういない。

だが怒りを募らせるトランプ氏は裁判で争う姿勢を表明している。その物言いは、21年1月6日の連邦議会襲撃事件を招いた時と同じく扇動的だ。ゆえに次期大統領選は、前回よりいっそう毒々しさを増す可能性も出てきた。

トランプ氏はフルトン郡地方検事局のファニ・ウィリス検事(民主党)による訴追を、選挙介入、あるいは民主主義を脅かす犯罪だと位置づけている。それこそ同氏が度々非難されている行為だ。

「民主党上層部のこうした動きは米国の民主主義に対する深刻な脅威だ。大統領に投票する米国国民の正当な権利を、直接奪おうとしている」とトランプ陣営は声明を発表した。「いわば選挙介入、選挙操作――人民の選択を抑圧する、支配階級の危険な試みだ。非米国的で、間違っている」

こうした発言は、米国を政治的崩壊の瀬戸際へと押しやった。というのも現在米国は、20年大統領選で不正行為があったとするトランプ氏の虚偽の主張と民主主義を狙った破壊的な攻撃を巡り、国を挙げての清算に直面しているからだ。同氏は自らを武器化された政府の犠牲者だと位置づけることに決めており、選挙活動を防御の盾として利用するつもりだ。このまま行けば波乱含みの、危険ですらある時期が前途に訪れかねない。人民による人民のための政府という原則を打ち砕く前代未聞の試みを訴追することは、長い目で見れば米国とってプラスかもしれない。だがトランプ氏は全てを捨てる覚悟を見せ、トランプ支持者の間には責任を追及する法執行機関への不信感がただでさえ広がっている状況から、民主主義の保護の代償は高くつくことになるだろう。最終的に陪審員や有権者がトランプ氏にどんな評決を下そうとも、悲痛な国の分断は深まるだろう。

選挙結果の転覆に関する連邦起訴や、今回のジョージア州の起訴と比べれば、現代米国政治のスキャンダルはどれもかすんで見える。リチャード・ニクソン大統領を退陣させたウォーターゲート事件しかり、ビル・クリントン大統領の弾劾(だんがい)訴追を招いたホワイトハウスのインターンとの不倫もしかり、ウクライナにバイデン氏の捜査を強要したトランプ氏の試みもしかりだ。この件は同氏に対する1回目の弾劾訴追の原因となった。

ジョージア州の民主主義を覆そうとする様々な試みが明るみになったことで、政権や上院の行方を左右する激戦州の雰囲気はさらにヒートアップするだろう。

不正容疑の非常に不利な内容

一連の起訴から、検察側が最善を尽くして証拠をそろえてきたことがうかがえる。検察の主張が裁判で検証され、トランプ氏の弁護士から反対尋問されるのはこれからだ。一般的に、起訴状には減刑につながるような無罪の証拠は含まれない。一般市民同様、トランプ氏も有罪が確定するまでは推定無罪として扱われる。

とはいえ、ジョージア州のブラッド・ラフェンスパーガー州務長官とトランプ氏の通話記録は、すでに多くの米国民の耳に入っている。この電話でトランプ氏は共和党の州務長官に、1万1780票を見つけさえすればジョージア州でのバイデン氏の勝利を撤回できると発言した。

トランプ氏が権力維持に失敗し、訴訟が次々と棄却され、議事堂襲撃事件が幕を閉じると、いかにして米国の民主主義制度が維持されたかが大いに語られた。20年に民主主義が崩壊せずに済んだのは、何人もの公職者の勇気があったからだ。その多くは共和党員で、ジョージア、アリゾナといった州で職務を担った。彼らに加えてペンス氏がいた。一般市民もその一端を担っていた――ジョージア州の選挙職員、ルビー・フリーマンさんとワンドレア・シェイ・モスさんは、トランプ氏から容赦ない圧力を受けて人生を台無しにされたと語っている。2人の支援者は、これでようやく無念を晴らすことができるだろう。選挙から何カ月も経た末に、一般市民で構成される同州の大陪審が前大統領に起訴状を突きつけたのだ。

4度目の起訴でも崩れない共和党のトランプ神話

今回の起訴は、米国史上最悪の部類に入る民主主義への攻撃に対する当然の措置だと大勢の米国民から受け止められるだろう。だがさらに多くの国民が、並外れて忠実なトランプ支持層を含めてそれを否定するのも間違いない。

多くの共和党支持者は、度重なる起訴こそがトランプ氏の主張を裏付ける証拠だと心から信じて疑わない。つまり、同氏の再選を恐れる民主党が政権を利用して同氏を起訴したというのだ。共和党の指名候補になるとみられる人物が、本選の対立候補の率いる政権の後押しで連邦起訴されるなど、この国ではかつて聞いたことがない。

保守派の多くは選挙制度が腐敗していると信じているが、そうした考えはトランプ支持者の間にも深く根付いている。結局のところ、同氏がそのような見方を何年もおぜん立てしてきた。選挙制度が不正にまみれているとの主張が最初になされたのは16年の大統領選だった。当時トランプ氏は民主党の指名候補ヒラリー・クリントン氏に選挙人票では勝ったものの、一般投票では及ばなかった。

トランプ氏に対する起訴を、ロシア介入捜査で証拠もなく不当に癒着が疑われた件と結び付けてとらえる共和党支持者も多い。そうした人々は、大統領の息子ハンター・バイデン氏が複数の脱税容疑と銃所持に関する連邦起訴で司法取引した一件(先日解消された)を、司法のダブルスタンダードの例だと考えている。ただし、大統領が不正に関与した証拠は一切提示されていない。

支持者を守るためなら起訴されても構わないというトランプ氏の主張は、市井の保守派に広く支持されている。それゆえ、4回目の起訴がトランプ氏の政治生命にこれまで以上のダメージを与えることはなさそうだ――少なくとも共和党予備選挙では、フロリダ州のロン・デサンティス州知事をはじめとする対立候補はこれまでのところ、トランプ氏の政治的損失を利用できずにいる。それをやれば、膨大な数のトランプ支持者を遠ざけることになるのは必至だ。

下院の共和党幹部が14日に即座の反応を示したことは、共和党内でのトランプ氏の影響力を特に物語っている。例えば下院共和党のエリス・ステファニク党会議議長は、「ならず者の極左過激派の司法長官が、またもや権威を政治利用して、ジョー・バイデン氏にとって最大の政敵トランプ前大統領を標的にした」と非難した。さらにニューヨーク州選出のステファニク氏は、「トランプ前大統領はこうしたばかげた起訴を打ち破り、24年の大統領選で再選を果たすだろう」と続けた。

とはいえ、激戦州や鍵を握る郊外の穏健派有権者の間では、今回の起訴でトランプ氏がさらに不利になる可能性もある。前大統領、それも共和党の次期指名候補になると目される人物が、翌年ずっと裁判に追われるといった事態も前代未聞だ。ペンス前副大統領の主席補佐官を務めたマーク・ショート氏は、想像を超えるトランプ氏の裁判沙汰が政治にどんな影響を及ぼすのか、誰にも予想がつかないだろうと述べた。

ショート氏は14日、CNNのジェイク・タッパー氏とのインタビューで「起訴されるのと実際に裁判所で公判に臨むのとでは、有権者に対する影響も違ってくる」と述べた。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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