ミャンマー軍事政権の「終わりの始まり」、全土で攻勢に出る抵抗勢力が誓う

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ミャンマー軍兵士が投降する様子を撮影か、抵抗勢力が主張

(CNN) 多くの血が流れた軍事クーデターから約3年。東南アジアの国ミャンマーの軍事政権は全土で複数の前線の戦闘を強いられる中、権力の座に過去最大の脅威が迫っている。

ここ数週間、影響力を持つ民族武装組織が抵抗勢力に加わり、かつて見られなかった協力体制のもとで新たに大規模な反転攻勢が展開されている。国民からの不信感が根強い軍事政権は、国境の戦略的要衝や主要な軍事拠点、重要な交易ルートを過去に例を見ないほどの規模で失い、戦闘能力の限界を露呈していると専門家は言う。

「今現在、軍事政権は崩壊する動きをみせている。それもひとえに、この広範な活動が全土で起きているためだ」と語るのは、ミャンマー専門家マシュー・アノールド氏だ。

今は「軍の存亡がかかった時期」だと言う同氏は、抵抗勢力が「打倒軍事政権という根本的な目標を掲げ、主要な町の奪還に注力している」と語る。

「1027作戦」と名付けられた反転攻勢は、影響力を持つ3つの民族反乱軍が同盟を結ぶ形で、先月末にミャンマー北西部で開始された。その勢いは国内各地に飛び火し、北部、西部、南東部の町や地域を次々支配しようと攻勢を強めている。

国連によると、先月27日以降200人近い民間人が命を落とし、33万5000人が新たに家を失った。

ミャンマーにいくつも存在する民族武装組織と歴代軍事政権との内戦は、何十年も前から続いている。だが最近になって戦況がエスカレートしたのは、2021年2月のクーデターに対する全国規模での民衆運動がきっかけだ。ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン最高司令官が起こした軍事クーデターで、民主選挙で選ばれたアウンサンスーチー政権は解体した。

軍はクーデター後も平和的な抗議活動を弾圧し、民間人に対する残虐行為も多数報告されている。これに端を発し、ミャンマーの農村部や都市部の中心地では、民衆が武器を取って町やコミュニティーを自衛するようになった。

以来、軍事政権に対抗する亡命政府、国民統一政府に賛同する抵抗勢力は、毎日のように政府軍と戦闘を繰り広げている。軍事政権は「テロリスト」の拠点とする場所に空爆や地上攻撃を展開し、今日までに子どもを含む数千人の民間人が死亡。200万人前後が家を追われた。

戦地で戦う人々は、軍事政権を追放するまで戦う覚悟だと言う。すべてのミャンマー国民が権利を享受し、自分たちの声が反映されるような連邦民主国家を樹立するためだ。

5年間恐怖と残忍行為で国を統治してきた軍をはじめ、長らく権力の座に居座ってきた体制の根絶は一筋縄ではいかないだろう。軍が退陣を拒めば、ミャンマーの内戦はさらに泥沼化する可能性もある。

先月27日以来激化している紛争は、ヤンゴン、マンダレー、ネピドーといった主要都市にはまだ広がっていないものの、抵抗運動にとっては流れを変えるターニングポイントに来ている。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、武装衝突はクーデター以降最も規模が大きく、熾烈(しれつ)な状況だという。

「我々が目にしているのは、国家行政評議会の終わりの始まりだ」。ミャンマー中部で政府軍と戦うビルマ国民革命軍(BNRA)のボー・ナガー司令官はCNNにこう語った。

ミャンマー北部シャン州の町で抵抗勢力のタアン民族解放軍のメンバーがパトロールする=2023年3月9日/Stringer/AFP/Getty Images
ミャンマー北部シャン州の町で抵抗勢力のタアン民族解放軍のメンバーがパトロールする=2023年3月9日/Stringer/AFP/Getty Images

ターニングポイント

タアン民族解放軍(TNLA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、アラカン軍(AA)、それに賛同する民間防衛軍が加わる「スリーブラザーフッド同盟」は先月反転攻勢を発表し、「抑圧的な軍独裁政治の撲滅に精力を注ぐ」と宣言した。

「民間人の生命を守り、自衛権を行使して、我々の地域の統治を維持する。現在行われている砲撃や空襲には確固たる意志で対抗する」ことを目的に掲げている。

また「中国との国境沿いを中心に、ミャンマーに広くはびこるインターネット賭博詐欺」の撲滅も宣言した。

中国やタイとの国境沿いにある多くの町では、中国人が経営する施設がここ数年活況だ。軍事政権の支援を受け、大規模なネット詐欺や違法賭博の拠点になっているともささやかれており、ネット詐欺の活動に従事させられるため数千人の人々が囲い込まれ、人身売買の対象になっているとされる。

CNNが取材した抵抗勢力軍のメンバーや専門家の話では、過去に軍事政権が国を完全支配したことは一度もないものの、前線が各地に広がっている現状では軍の能力が限界に近づき、とくに北東部で守勢を強いられているという。

軍事政権が据えたミンスエ大統領も珍しく、今月軍幹部を交えた国防安全保障会議で警告した。「政府が国境地域での現状に効果的に対処できなければ、国は分散してしまう」

北部シャン州で抵抗勢力TNLAのメンバーがベースキャンプでの訓練に参加する=3月8日/Stringer/AFP/Getty Imges
北部シャン州で抵抗勢力TNLAのメンバーがベースキャンプでの訓練に参加する=3月8日/Stringer/AFP/Getty Imges

CNNは最近の戦況についてミャンマー軍の広報担当者にコメントを求めたが、返答は得られなかった。

軍事政権も「激しい戦い」に入っていることは認めている。ロイター通信によると、政府の全職員および兵役経験のある首都住民に対し、非常時には徴兵に備えるよう命令を出したとされる。北東部のいくつかの町では戒厳令も敷いている。

先の国防会議では、「地域の平和と安定を確保するために、今後も必要な安全保障対策を講じていく」との発言もあった。

軍事政権は国営メディアで、首都ネピドーに1万4000人の兵士を常駐して軍の主要本部の防衛に当たらせているという主張を否定した。また公務員を徴集して軍事訓練を受けさせているという主張も否定し、どちらも「フェイクニュース、偽情報」だと述べた。

国境の要衝を失う、降伏する部隊の情報も

CNNが取材した抵抗勢力の戦闘員、および地元の独立系メディアの話によると、軍事政権は北部国境沿いの山岳地域シャン州で、少なくとも6つの町を奪われた。そこには中国との交易・交通の戦略的要衝、チンシュエハウやクンロンも含まれている。また幹線道路の他、軍事拠点や陣営地も100カ所以上失った。

国際社会からの制裁で資金不足の軍事政権は、交通経路を断たれたことで貴重な収入源を失った。同盟軍はチンシュエハウに加え、ムセの町へと続く道路も支配したと主張している。ここは中国との越境交易の98%が行われている場所で、ミャンマーの公式統計によるとその規模は今年4~10月期で22億ドルにのぼる。

西部ラカイン州では1年の期限付き休戦が破られた後、少数民族の武装集団アラカン軍(AA)が戦闘を再開し、新たな前線を形成している。現在も複数の町で軍事政権との衝突が続き、地元の村の大修道院長ウー・ナン・ディア氏によれば、パウトーの町は「戦場と化した」という。

兵士の脱走や、場合によっては部隊ごと降伏したとの報告もある。

国内避難民のために寺院から一時的な避難所に変わった施設で、人々が食料を求めて並ぶ=11月15日、シャン州ラシオ/Stringer/AFP/Getty Imges
国内避難民のために寺院から一時的な避難所に変わった施設で、人々が食料を求めて並ぶ=11月15日、シャン州ラシオ/Stringer/AFP/Getty Imges

南東部ジャングル地帯にあるカヤ州では、州都ロイコー付近で戦闘が繰り広げられている。カレンニ民族防衛軍が撮影・公開した動画を見ると、ミャンマー軍の兵士がロイコー大学で抵抗勢力に降伏し、傷の手当てを受けている様子が映っている。CNNではこうした事案があったか独自に検証できていない。

西部丘陵地帯のチン州では、大勢の人々が戦禍を逃れ、国境を越えてインドの町ミゾラムに渡った。ミゾラム警察のラルマルソーマ・ナンテ氏によると、そのうち43人が抵抗勢力に基地を制圧されて脱走したミャンマー軍の兵士だという。ロイター通信によると、数十人あまりがミャンマーに送還された。

CNNが取材した抵抗勢力の戦闘員は、遭遇したミャンマー軍兵士は戦闘意欲を失っていたと語った。

「民間人から支持されず、戦地の兵士は士気を喪失している」と語るのは、スリーブラザーフッド同盟とともにミャンマー北部と南東部で戦うビルマ人民解放軍のリン・リン報道官だ。

「町の占拠に先立つ戦闘で目の当たりにしたのは、兵士が十分な武器を持っていない状況ではなく、戦闘意欲を失っている状況だった。今までなかったことだ……戦闘意欲がないおかげで、我々は勝利を重ねている」

一部の町は比較的容易に陥落したものの、政府軍が兵士を増強・補充しやすい中心地域の拠点では、激しい戦闘が繰り広げられているという指摘もある。

「戦車が目標の村へ向かうと、我々は攻撃戦術を駆使して軍の目をそらせ、村に進行するのを食い止めようとする。数で劣勢だったために撤退を余儀なくされたことも何度かある。軍が攻撃して民間人を殺戮(さつりく)するのはそういう時だ」(BNRAのサガイン地域司令官、ボー・ナガー氏)

限界に近づく軍隊

政府軍の相次ぐ敗退から、空爆や大型兵器という頼みの綱があるとはいえ、町の奪還に必要な兵力や戦闘能力は不十分であることがうかがえると専門家は指摘する。

「私が見たところ、抵抗勢力の戦略はまだ初期段階なので、現在の戦況が最終的にどんな結末を迎えるのか予測するのは困難だ。だがひとつ確かなのは、1027作戦で軍事的なバランスは抵抗勢力側に傾いている」。こう語るのは、米国平和研究所とウィルソンセンターで研究員を務めるイェ・ミオ・ヘイン氏だ。同氏いわく、政府軍は「国中で、四方八方から容赦ない攻撃にさらされている」

イェ・ミオ・ヘイン氏の分析チームは今年5月、シットタット(政府軍の別称)の規模はこれまえで考えられていたよりもずっと小さく、職員数は15万人、兵士は7万人程度だと述べた――「軍隊を維持するのもままならず、政府の体をなすにははるかに不足している」

カレン州国境警備隊の隊員が、アジアハイウェーのヤンゴンとミャワディを結ぶ区間をパトロール=9月24日/Stringer/AFP/Getty Images
カレン州国境警備隊の隊員が、アジアハイウェーのヤンゴンとミャワディを結ぶ区間をパトロール=9月24日/Stringer/AFP/Getty Images

イェ・ミオ・ヘイン氏もCNNの取材で、「注目なのは、北部シャン州での休戦期間中、軍は部隊をカレニやサガインに再配備した点だ。これにより、北部シャン州の勢力は大きな戦果を短期間であげることができた。今後さらに部隊に動きがあれば、抵抗勢力にとってその地域での大きな前進を可能にするチャンスになる」と述べた。

軍事政権が戦場での敗北を受け、標的を市民に向け始めているという懸念も持ち上がっている。

民間人に対する暴力行為はミャンマー軍の常套(じょうとう)戦略だ。クーデター以降、部隊が定期的に村を空爆して焼き尽くし、人権違反を犯しているという証拠は増えるばかりだ。

監視機関の記録によれば、反転攻勢が始まった先月以降、軍事政権は複数の村に空爆や砲撃を展開した。国民統一政府によれば、今月15日にはチン県マトゥピにある村が政府軍の空爆に遭い、11人が死亡。そのうち8人は子どもだったという。

今後の展開

国際舞台で勢力を伸ばす中国とインドに挟まれ、南はタイ、西はバングラデシュと国境を接するミャンマーは、国内の戦闘により隣国との関係が途絶える脅威にもさらされている。

国境管理もままならず、大量の難民が隣国に次々となだれ込む中、軍事政権が国内情勢の安定化を図れなければ、国際社会で唯一の味方であり最大の投資元でもある中国の怒りを買いかねない。

国境の向こう側で戦闘が激化する中、中国軍が25日にミャンマーとの国境付近で実弾を使った軍事演習や訓練を行ったと国営英字紙グローバルタイムズが報じている。

同紙によれば、中国人民解放軍南部戦区司令部の田軍里報道官は「戦区司令部の部隊は、様々な緊急事態に対応できるよう万全の態勢を整えている。国家の主権、国境の安定化、人民の生命と財産の安全を守るという意志を固めている」と述べた。

アーノルド氏によれば、もはや近隣諸国からミャンマーへのアクセスは断たれていて、軍事政権は「厳しい現実を突きつけられている」。

「近隣諸国はどこも軍事政権との良好な関係維持に相当な額を投資してきた。だがミャンマーへのアクセスが失われた途端、そうした状況は各国の地政学的な計算に変化をもたらした。中国しかり、インドやタイも同じだろう」(アーノルド氏)

ミャンマーの軍事政権は11年までの半世紀強、残虐行為と恐怖で国を統治してきた。それゆえにミャンマーは困窮したのけ者国家となってしまった。

ジャングルや山間部で何年も続いた紛争で、少数民族は国家公認の差別に加え、軍隊による大量殺戮(さつりく)、レイプやその他の性暴力、拷問、強制労働、追放を目の当たりにし、その被害を受けてきた。

短期間ながら大規模な民主改革と経済改革をもたらした10年の移行期間も、クーデターで突然終わりを迎えた。だがアウンサンスーチー氏率いる民主政権下でも、軍は依然として法外な影響力を保持した。また、長らく知られていた少数民族への虐待や暴力行為も続いていた。

一部の専門家からは、ミャンマーが軍事政権打倒という目標達成に、これまで以上に前進しているという意見も出ている。

「明確にしておくべき重要な点は、ジェノサイド(集団殺害)を行う軍隊は徹底的に打倒されうるという点だ。……さらに10年間の『移行期間』を設定する必要はないという点だ。基本的に移行期間とは、ジェノサイドを行う軍隊と交渉して妥協しなければならないという考えが前提になり、またはその考えで汚れているのだから」(アーノルド氏)

戦闘員の中には、慎重ながらも楽観視する見方もある。

「平等な権利を保障する連邦民主国家の樹立に向け、我々は互いに協調して力をつけてきた」とボー・ナガー氏は言う。

「このように連帯すれば、弱者いびりの軍隊をすぐに打破できると信じている。それが完了したとき、このような連帯が我々の国を再建する基盤になるだろう」

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