死去した独裁者「復活」、ディープフェイク時代の選挙に漂う怪しさ インドネシア

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人工知能(AI)で生成されたインドネシアのスハルト元大統領/Erwin Aksa/X

人工知能(AI)で生成されたインドネシアのスハルト元大統領/Erwin Aksa/X

(CNN) かつて陸軍大将として恐れられ、強権を振るってインドネシアを30年以上にわたり支配した人物が、来る選挙を前に有権者たちにメッセージを送った。死後の世界から。

「私はインドネシアの第2代大統領、スハルトだ」。かつての陸軍大将が登場した3分間の動画は、ソーシャルメディアのXで470万回以上閲覧され、ティックトックやフェイスブック、ユーチューブでも拡散している。

いかめしい表情のこの人物が、インドネシアの元大統領でないことは明らかだ。本物のスハルト氏は2008年、86歳で死去している。

動画は人工知能(AI)で生成した「ディープフェイク」で、ツールを駆使してスハルト氏そっくりの顔と声を作り出したものだ。インドネシア最大にして最古の政党の一つ、ゴルカルの幹部を務めるアーウィン・アクサ氏は、動画制作の目的について、来る選挙で有権者がいかに重要な存在であるかを思い起こさせることが狙いだったと明かす。今月14日の選挙を前に、同氏はまずXで動画を共有した。

今回の選挙に臨むのはゴルカルを含む18政党。投票に向かう有権者は2億人を超える。ゴルカルは自党の大統領候補者を立てていないが、現在支持率トップを走るプラボウォ国防相への支持を表明している。プラボウォ氏はスハルト氏の親軍政権下で陸軍大将を務めた。スハルト氏の娘の元夫でもある。

死去から長い年月を経過した指導者を選挙前に生き返らせたゴルカルの意図は明白だ。それは有権者に対し、スハルト氏の代名詞だった同党を支持するよう促すことに他ならない。

しかしネット上では、死者の顔と声を利用する行動への非難が噴出。とりわけ政治的な宣伝工作に使われていることに対する批判の声が大きい。

「これが今日の我が国の状況だ。死んだ独裁者を生き返らせて我々を欺き、脅して投票させる」。あるインドネシア人はXにそう書き込んだ。

別のユーザーは「いつから死者のディープフェイクを作ることが倫理的に認められるようになった? 道徳上ひどい間違いだと感じる」と批判した。

ネット世界はインドネシアの政治において極めて大きな役割を果たす。同国のネット使用率は世界最高水準にあり、ほぼ全ての政党、政治家がソーシャルメディア上で強力な存在感を維持。支持者と影響力の拡大を図っている。

ネット上の権利を扱う米非営利団体「アクセスナウ」でアジア太平洋地域の活動に携わるゴルダ・ベンジャミン氏は「ディープフェイクは選挙に多大な影響を及ぼす可能性がある。選挙運動の手法だけでなく、投票結果についても」と指摘。

その上で「危険なのはそれが拡散する速度だ。ディープフェイクは容易に数百万人の下へ届く。数秒で(数百万人の)有権者に揺さぶりをかけ、操ることができる」と懸念を示した。

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