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「オッペンハイマー」が日本公開 核戦争の恐怖経験した唯一の国で上映

「オッペンハイマー」が日本公開、観客の反応は

(CNN) 先週末、日本の映画ファンにようやく「オッペンハイマー」を鑑賞する機会が訪れた。原子爆弾の開発を主導した米科学者の伝記映画は8カ月前に世界各国で公開されたが、核兵器の恐怖を直接経験した唯一の国でどのように受け止められるのかを巡っては懸念が浮上してもいた。

英国系米国人のクリストファー・ノーラン監督が撮った本作は今年の米アカデミー賞で作品賞を含む最多7部門を受賞。2023年公開の映画として最も成功した作品の一つとなり、同じ週末に封切られた「バービー」と掛け合わせた「バーベンハイマー」なる造語を生むなど、世界的に話題を集めた。

しかし昨年のそうした盛り上がり方を多くの日本人は快く思っていなかった。それは痛みを伴う映画の内容についても同様だった。作品は破壊的な威力を持つテクノロジーを中心に据え、J・ロバート・オッペンハイマーと彼の率いる科学者チームがそれを解き放つ過程を描く。

日本では、非公式の「バーベンハイマー」の語と共に本作が宣伝される状況を受け、1945年に行われた広島、長崎への原爆投下が軽視されていると感じる人々もいた。配給元のユニバーサル・ピクチャーズは、昨年7月の世界公開に日本を含めない選択をした。

上映時間3時間に及ぶこの伝記映画は、昨年7月の公開以来複数の記録を更新。ユニバーサルによると、第2次世界大戦期を舞台にした映画としては史上最高の興行収入を叩き出したという。

日本では先月29日の公開後、最初の週末の興収ランキングで4位につけた。興行通信社が明らかにした。公開から3日間の興収は3億7900万円だった。

宣伝活動の一環として、ユニバーサルは長崎の被爆者、朝長万左男(ともなが・まさお)氏に見解を求めた。朝長氏は長崎県被爆者手帳友の会会長を務める。作品の日本語公式ホームページに寄せたコメントで、同氏は映画後半の主人公の苦しみに言及した。作中でオッペンハイマーは、戦後に起こった核兵器の開発競争に反対する活動を始める。

「これは核なき世界が遠のきつつある現在の世界の根本問題にもつながる。ここにノーラン監督の政治家の責任を追及する秘めたメッセージが感じられる」。そう朝長氏は語る。

一方、平岡敬(たかし)元広島市長はオッペンハイマーを「矛盾に満ちた人間」と評する。科学者の研究成果が、国家によって殺人兵器に利用された。後にその科学者は核の脅威を秘匿する危険性を訴えたが、警告は同じ国家の機関によって無視された。

「その頃の空気は今の時代にも満ちている」「もう一度観て、核抑止力を信奉する国家とは何か、を考えたい」(平岡氏)

映画「オッペンハイマー」で主人公のオッペンハイマーを演じるキリアン・マーフィー/Melinda Sue Gordon/Universal Pictures
映画「オッペンハイマー」で主人公のオッペンハイマーを演じるキリアン・マーフィー/Melinda Sue Gordon/Universal Pictures

「オッペンハイマー」は先月のアカデミー賞を総なめにした。主人公のオッペンハイマーは物理学者で、ドイツ出身の繊維製品の輸出業者を父に持つ。米国政府と提携し、ある爆弾の開発を手掛ける。それはナチスドイツとその同盟国の脅威を封じ込めるための兵器だった。

オッペンハイマーが開発した爆弾は、1945年8月6日に初めて使用され、壊滅的な影響をもたらした。その日、エノラゲイと名付けられた米軍のB29爆撃機が、1発の原子爆弾を広島に投下した。

3日後にはボックスカーと名付けられた別のB29が長崎に原爆を投下。2発の原爆により、少なくとも11万人が投下直後に死亡した。米エネルギー省が所有するマンハッタン計画の資料によると、その後の5年間でさらに数十万人ががんなどの副次的影響で命を落としたと考えられている。

原爆投下後に日本は降伏し、第2次世界大戦は終結した。しかし投下は日本にとっての痛烈な記憶として残り、それを源とした倫理観を巡る重大な議論は今日に至るまで続いている。昨年の「バーベンハイマー」ブームの受け止め方が日本で極めて異なっていたのはそこに一因がある。

昨年7月、作風や内容があまりにもかけ離れた「バービー」と「オッペンハイマー」が同日に公開されることにネットユーザーが反応し、双方の画像を加工・合成したミーム(ネタ画像) などがソーシャルメディアにあふれた。「バービー」の配給元のワーナー・ブラザース・フィルム・グループは、自社のX(旧ツイッター)アカウントで原爆とバービーを合成した画像に好意的な反応を示したため日本で非難を浴び、後に謝罪した。ワーナー・ブラザースはCNNと同様、米メディア企業ワーナー・ブラザース・ディスカバリーの1部門。

当時は「バーベンハイマー」ブームに対抗するハッシュタグ「#NoBarbenheimer」もソーシャルメディアに登場した。公開を受け、ネット上で共有された画像には、東京都内の複数の映画館入り口に掲示された告知が写っている。核実験の描写を含む作品のため、原爆の実際の被害を想起する可能性があると注意を促す内容だ。

当初の公開から遅れること8カ月。鑑賞後の日本の観客がソーシャルメディアに投稿した内容には、様々な感情が入り交じっている様子がうかがえる。

あるXユーザーは、作中で日本や広島、長崎の名が出るたび複雑な心境になったと書き込んだ。ただ原爆実験のシーンの美しい描写には魅了されたという。

別のユーザーは、重く、胸が締め付けられる作品と評価。悲しくはかない内容ながら、それでいて美しいと語った。

19歳の学生、カネモト・リシュウさんは3月29日に映画を鑑賞した。

ロイター通信の取材に答え、原爆が投下された広島と長崎は間違いなく被害者だとしつつ、オッペンハイマーに対する同情も口にした。

その上でカネモトさんは、原爆の発明者は加害者の一人だとは思うが、オッペンハイマー自身もまた戦争に巻き込まれた被害者だとの認識を示した。

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